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人生には思わぬ困難が待ち受けていることがある。大学を卒業した児玉さん(仮名)が、首都圏の大手製造メーカーに入社したのは、今から20年ほど前になる。その後、“とある理由”を経て、2018年に「うつ病」と診断され、3年8か月もの休職を余儀なくされるに至った。一体何があったのか。
この記事の目次
自身をトランスジェンダーと自覚
児玉さんは、幼少期からずっと自身のなかに違和感のようなものを持っていたという。様々な情報を探っていくうちに、その違和感の正体にたどり着く。
「ネットで現在でいうトランスジェンダーの情報を見かけました。20年近く前はトランスジェンダーという言葉はなかったと思いますが。そして『これは自分に当てはまっている』と確信するようになったんです」
戸籍上は男性である児玉さんは、髪を伸ばし始め、女性ホルモンを投与するようになった。入社してから数年経ち、社外とも関わりを持つ会社の窓口のような部署で活躍していた時期だった。
異動先での冷遇で適応障害に
同部署に6年ほど在籍していたため、会社の慣例で児玉さんは異動することになる。しかし、児玉さんが会社に対して最初に不信感を抱くことになったのが、この辞令だったという。
「製造関連の部署で『生産管理の仕事を任せる』と言われたんですが、異動先には、私のデスクはおろかパソコンさえもありませんでした」
上司にその状況について聞くと「まずは実習から」との返答。仕方なく、数日は言われるままに働いた。ところが、社内の共用パソコンを使った際、あることが判明する。
「(自分の)社用のメールアドレスが剥奪されていることが判ったんです。髪を伸ばし始めた私に対して、『表舞台に立たせないようにしよう』という意味合いもあったように感じました。というのも、大卒で本社勤務だった人が私のように製造の現場に行くという事例はほぼないんです」
その後も、当初伝えられた内容とはまったく違う業務をあてがわれた。話が違うということを社内の各方面に訴えたが、は全く取り合ってもらえない。児玉さんはやがて心を病み、適応障害と診断された。
社内でも「女性」として過ごすように
その後、社内の再編によって当該部署は廃止に。配属社員のほとんどは本社勤務になったが、ここでもなぜか児玉さんだけが本社から離れた施設での勤務を言い渡されたという。
異動先には男女の更衣室があったが、ホルモンの投与などによってすでに女性らしい体つきになっていた児玉さんは、別の場所で着替える許可を得るため、自身がトランスジェンダーであることを会社に公表。個人的にも会社の中でも「女性」として過ごしていくことになった。
執拗に「彼」と呼ぶ直属の上司
公表後も児玉さんが女性であることを頑として認めなかったのが、「直属の上司」だったという。
「上司は私を『彼』と呼び続けました。何度も『彼と呼ばないでほしい』と直接訴えたが、全くやめてくれなかったんです。同じく、女性社員のことは『~さん』という敬称で呼ぶのに、私だけ『児玉くん』だったんです」
暖簾に腕押しのような状況は半年にも及び、児玉さんの心は疲弊していった。状況を会社に何度も訴えてようやく、別の管理職を含めた三者面談が設定されたのだが……。
「その席でも『女として認めてほしいなら手術をしてから主張しなさい』『戸籍変更してから主張しなさい。そういう細やかな心遣いがあなたには必要なんじゃないかな』と、自らの意見を曲げることはまったくありませんでした」
アイデンティティを否定されるハラスメント
性自認や性的指向に関する差別的な言動や嘲笑、精神的・肉体的な嫌がらせやいじめを行うことを「SOGIハラスメント」と言われるが、はまさに“SOGIハラ”の被害者となった。
トランスジェンダーの話題となると、ネット上には、性癖だと認識した言説も飛び交う。当事者視点から、「それは間違っている」と児玉さんは話す。
「『性同一性』という言葉は聞いたことがあると思います。『性』は英語にするとGENDERで性別のこと。そして『同一性』はアイデンティティと訳されるんですよ。なので、SOGIハラは『アイデンティティを否定される』ということなんです。
自分のアイデンティティを、否定され続けたら死にたくなりますよ。まして、トランスジェンダーはそれが人として生きて行く根幹でもあるわけです。趣味だと思っている人もいるかもしれませんが、そんなことはありません」
担当変更で仕事が激減してしまう
上司からのハラスメントが始まって約半年、職場全体の雰囲気を鑑みてか、会社は児玉さんを当該上司と直接のやりとりが生まれにくいよう、職務担当の変更を行った。
ただ、それは、すでに性的なアイデンティティを蹂躙されていた児玉さんに、さらなる追い討ちをかける結果となった。
「私にとってそれまでやって来た仕事を取り上げられたという感覚です。実際、仕事内容が変わったことで私の仕事は激減しました」
仕事をやりくりしたり、達成したりすることは、社会人にとってのアイデンティティになり得る。児玉さんは会社によって、こちらのアイデンティティも潰されることになったということになる。
面談場所はまさかのカラオケボックス…
児玉さんはとうとう2018年に「うつ病」と診断され、休職を余儀なくされた。その際、これまでのハラスメントを労災として認定してもらおうと決意。また、復職のために会社に求めたのは次の点だった。
「ハラスメントをしていた上司を異動してもらうように求めました。それができないならば、私を別の部署に異動させて欲しいと、譲歩した提案もしました」
しかし、会社はその提案に取り合わず門前払い。それでも繰り返し話し合いの場を求めると会社はようやくそれに応じたのだが……。
「面談をすることになったんですが、ハラスメントを行った上司がいる職場に来るように言われました。私は、上司がいるその工場に行くだけでも吐き気がしてしまうので、本社で面談してほしいとお願いしました。でも、拒否され続けたんです。結果的に呼び出された場所は、カラオケボックスでした。あまりにもぞんざいに扱われているなと思いましたね」
労働組合の協力で復職に成功
会社とたった一人で戦ってきた児玉さんだが、それでは埒があかないと、社会保険労務士や弁護士の力も借りたという。すると、3年もの間、譲歩の気配さえなかった会社から、あの上司のいない別の部署への復職の提案が上がってきた。しかし……。
「復職先は、元の職場から数百キロ離れた工場だったんです。辞めさせたいという意思を感じましたね。弁護士さんも『その提案を飲むのはマズイので、基本的に突っぱねるように話を進めましょう』と言ってくれたんです」
ただ、戦いが長引くと弁護士費用もかさみ生活を圧迫することになることから、断念せざるをえなかった。その頃に、知人を通して紹介されたのが、個人で加入できる労働組合「プレカリアートユニオン」だ。
児玉さんは同組合とともに戦い、2021年9月についに、転勤の必要もなく、ハラスメントを行っていた上司とは別の空間で業務ができる部署で復職することができた。さらに2022年6月には、労働基準監督署の労災認定も獲得することができた。
これまで我慢を強いられてきた人たちが、徐々にではあるが声を上げやすい世の中になってきている。とはいえ、いまだに差別意識は根強く残っているのも事実。少しでも多くの人が、その被害に遭わないように願ってやまない。
<取材・文/Mr.tsubaking>
【Mr.tsubaking】
Boogie the マッハモータースのドラマーとして、NHK「大!天才てれびくん」の主題歌を担当し、サエキけんぞうや野宮真貴らのバックバンドも務める。またBS朝日「世界の名画」をはじめ、放送作家としても活動し、Webサイト「世界の美術館」での美術コラムやニュースサイト「TABLO」での珍スポット連載を執筆。そのほか、旅行会社などで仏像解説も。
引用先:https://news.yahoo.co.jp/articles/47d4c00357f6fc1bf5ccb1539a13625be658421b
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