「予防接種」のほとんどは注射のため、憂鬱になる人もいるでしょう。とがった針が腕に突き刺さることを想像するだけで、すこし落ち着かない気持ちになります。
しかし従来の注射による予防接種、痛くない方法を選べるようになるとしたらどうでしょうか?
それが鼻ワクチンと言われる新しい接種方法です。この記事では、鼻ワクチンについて紹介します。ぜひ最後まで読んでみてください。
この記事の目次
鼻ワクチンとは?期待される効果
鼻ワクチンは注射ではなく、鼻の粘膜にスプレーし、免疫の獲得ができるようにしたものです。接種方法は鼻の中へスプレーする噴霧型のため、注射のようなチクッとした痛みはありません。
画像を見ると注射の先は針がない形になっています。接種を受ける人の鼻腔へ先端を少し差し入れ、シュッと噴霧が出る形状のようです。
注射ワクチンと鼻ワクチンの違いは、以下のようなものです。
接種方法 | 獲得抗体の種類 | 抗体の働き |
皮下や筋肉へ注射 | IgG | 血液中ではたらいて感染を防ぐ |
鼻の中へスプレー | IgA | 鼻の粘膜上ではたらいて感染を防ぐ |
抗体は細菌やウイルスから体を守る免疫機能のひとつ
IgG・IgAとは、免疫グロブリンというタンパク質の一つです。免疫グロブリンには「IgG・IgA・IgM・lgD・lgE」という5つの種類があります。
IgGは、血液中にもっとも多く含まれているもので、免疫グロブリンの約80%を占めています。IgAは、血液中や腸管・分泌物に多く含まれる抗体です。鼻や目の粘膜から細菌の侵入を防ぎます。
接種する箇所によって抗体の種類は変わりますが、どちらも細菌やウイルスから私たちの体を守ります。
鼻ワクチンに期待される効果とは
鼻ワクチンは、鼻の粘膜の中に抗体を作るため、体内にウイルスが入り込みにくくできると期待されています。
風邪やインフルエンザになる原因は、呼吸する口や鼻からウイルスが入って来るケースが大半です。またコロナウイルスの感染原因も空気を介するといわれています。
鼻ワクチンは、鼻腔内へ直接ワクチンを吹きかける方式です。抗体は鼻の粘膜内につくられます。この抗体が、ウイルスを粘膜上で排除すると期待されています。
鼻ワクチンのメリット
鼻ワクチンには、注射のような痛みがありません。注射は医療従事者でなければおこなえませんが、鼻ワクチンなら接種を行える人が従来より多くなる可能性も考えられます。
現状の注射よりも実施できる人が増えれば、一度に多くの人に接種できるようになります。
また整った医療施設が必要とならないため、地方の過疎化した地域などでもワクチンの接種が進みやすくなるでしょう。
新型コロナワクチン接種率の現状
首相官邸で公表されている新型コロナワクチンの接種回数は、2022年9月15日現在で3億回を超えています。2回接種完了者は1億人を超えており、接種率は80.4%に達しました(※1)。
多くの日本人がワクチン接種しているにもかかわらず、コロナウイルスに感染する人は増加しています。
ワクチン接種しても感染する理由
ワクチン接種してもウイルスに感染するのは、多くの人がブレイクスルー感染しているからでしょう。
ブレイクスルー感染とは、接種したワクチンが予防するはずの病原体へ感染してしまうことをさします。ワクチンを接種すると血液中に抗体ができても、鼻や口の粘膜上では弱く、感染を防ぐ効果があまり強くないからです。
そこで感染する確率を下げるための方法として、鼻ワクチンが注目されるようになりました。
鼻ワクチンの開発現状
鼻ワクチンの開発は、インフルエンザやコロナウイルスの分野で進められています。
2022年9月6日、インド製薬会社で世界初、コロナウイルスの鼻ワクチンが許可されました。医療環境が整っていない新興国では、鼻ワクチンの開発は急務といわれています。
日本では、塩野義製薬がコロナウイルスの鼻ワクチン開発に携わっています。
塩野義製薬のコロナウイルス鼻ワクチン開発状況
塩野義製薬が開発中の鼻ワクチンは、千葉大学病院と株式会社HanaVaxが連携しておこなっています。
開発の状況は、2022年度の臨床入りを目指して研究を進めているとしています。
インフルエンザの鼻ワクチン
インフルエンザの鼻ワクチンの開発についても、現在経鼻投与型として開発が進められています。
アメリカやヨーロッパでは、2003年ごろよりフルミストという点鼻型のワクチンが認可されています。日本では第一三共が厚生労働省へ承認申請中です。
まとめ
チクッとした痛みや、上腕に針を突き刺す様子が苦手という人にとって、注射は憂うつです。鼻ワクチンは痛みを伴わないため、注射が苦手な人にとっては早く実現してほしい接種方法でしょう。
また特定の医療従事者や医療施設を必要としないのなら、過疎地などでの接種もしやすくなります。
鼻ワクチンの実施までには期間がまだ必要となりそうです。しかし近い将来には、注射しなくてもいい接種ができるようになるかもしれません。